*伝説の英雄の娘♢ギルドの動揺
身分証を手に取った瞬間、オジサンの顔がみるみる驚愕に変わり、その手が微かに震え始めた。
「……え!? あ、あの……伝説の賢者様と魔術師様の……娘さん……なのか?」その場にいた職員たちがざわつき始め、興味深そうな視線が一斉にレティアに向けられる。受付のお姉さんも、その言葉に驚いて顔をこわばらせると、慌てて身なりを整えるように姿勢を正した。
「え!? わ、失礼しました。」 それまで親しげだったお姉さんの口調も、一気にかしこまったものへと変わった。レティアはその異様な雰囲気に戸惑いながらも、内心少し誇らしげな気持ちを抑えられなかった。
『そっか……やっぱりお父さんの力って、すごいんだね。でも、なんか……ちょっと居心地悪いかも。』身分証が持つ権威を理解しているものの、それが引き起こす周囲の反応に戸惑うレティア。彼女の愛らしく無邪気な姿と、周囲のかしこまった態度のギャップが、その場の空気を一層不思議なものにしていた。
周りの視線も可愛い子供を見る視線から、その眼差しは、驚きと畏敬が入り混じったものであり、まるで伝説そのものが目の前に具現化されたかのような感覚を抱いているようだった。職員の瞳は大きく見開かれ、息を呑む瞬間、まるで時が止まったかのように感じられた。
その視線には「尊崇のまなざし」が込められており、深い敬意と憧れが溢れていた。一方で、目の奥にはほんの少しの戸惑いがあり、あまりにも偉大な存在を目の当たりにしたことで、どう接すべきか悩むような気配が漂っていた。
職員の表情は硬直していたが、それは恐怖ではなく、純粋な感嘆と希望が入り混じるものであり、伝説の英雄の娘を前にして、自分がその存在にふさわしいかどうかを無意識に問いかけているようだった。尊敬の念がその身体全体に満ち、言葉を紡ぐことすら困難に感じるほどだった。
鑑定板を差し出してきた職員も、砕けた鑑定板を見つめて頷いていて理解したような仕草をしていた。
♢ギルドからの敬意と希望「れ、レティアさん……あの、鑑定結果ですが……全職業に適正があると確認できました。レベルはおよそ……ですが36以上あると思われます。」
ギルド職員が跪き、かしこまって言ってきた。「伝説の英雄の娘さんとお会いできて……光栄です。それと……」
跪いた職員は言葉を探しながら、背筋を伸ばし、真剣な眼差しをレティアに向けた。「あなたが王国に訪れてくださったこと、それ自体が私たちにとって大きな希望です。英雄たちが守り抜いたこの世界を、こうして見てくださることが……どれほど意味のあることか。」彼の隣に立つ若い女性職員も、目を潤ませながら少し震えた声で続けた。「レティアさん……私たち職員は、英雄の犠牲を忘れたことはありません。あなたを見るたびに、あの時の涙と希望が胸に蘇るようです。本当に、ありがとうございます……」
そう言いながら、そっと手を胸に当て、一歩下がると深く頭を下げた。別の年配の男性職員が、すっと立ち上がりながら重々しい声で話を引き継ぐ。「我々はあの日、英雄たちが最後まで貫いた意志をこのギルドに刻み込んでいる。そして、その意志を次の世代に引き継ぐために、日々努力しているつもりだ。だが、あなたをこうして目の前にすると……その信念がさらに強く胸に宿る思いだ。どうかこれからも……」
声が詰まり、静かに目を閉じて深く一礼をする。その間、他の職員たちも一言ひとこと感謝を口にしながら、それぞれが敬意を示す仕草を見せた。ある者は心を込めた握手を求めるように手を差し出し、ある者はそっと目元の涙をぬぐいながら頭を下げていた。
年配の男性職員が静かに杖を床につき、厳格な表情でレティアに語りかけた。「あなたの親御さんが残した遺志は、このギルドに刻まれています。彼らが命を懸けて守り抜いた世界を、私たちが次の世代に受け渡すため、日々努力しています。そして、こうしてあなたにお会いできたことで、その使命がさらに強く心に刻まれる思いです。どうかこれからも、その歩みを私たちに支えさせてください。」
声の深さと重さが響き渡り、部屋中が静寂に包まれる。職員たちはそれぞれ深く頭を下げ、その行動や仕草から彼らの敬意と感謝が溢れ出ていた。握手を求める者、目頭をぬぐう者、静かに跪く者。どの一人も、レティアの存在を前にしてその場にいることを名誉と感じていた。
「レティアさん、これは私たちの小さな感謝のしるしです。」
職員のひとりが差し出した手の中には、光り輝く紋章があり、それはギルドの最も高い敬意を示すものであった。その言葉の余韻と共に、ギルドの職員全員がそろって頭を下げた。部屋の中には深い敬意と感動が満ち溢れ、静かな一体感が漂っていた。レティアは驚きつつも、その場の空気をしっかりと受け止め、緊張した面持ちで静かに頷いた。その青い瞳に宿る光が、まるで英雄の魂が宿るかのように清らかだった。
*冒険者登録♢SSSランクの衝撃「あ、あの……わたし、冒険者になれますかぁ……?」
レティアは注目を浴びる中、緊張に包まれながらも勇気を振り絞り、控えめな声で尋ねた。部屋の中は一瞬沈黙が流れ、彼女の幼い声が静かな空気に響き渡った。杖を持つ年配の職員が彼女の質問を受け止めると、静かに頷き、他の職員たちを見やった。彼の指示を受けた職員は慌てた様子で別室へと走り、数分後、手に冒険者証を持って戻ってきた。その証には、すでにレティアの名前が刻まれており、輝くSSSランクの刻印が目に入る。
「えっ?」
レティアは目を見開きながらその冒険者証を覗き込み、首を傾げた。 「わたし、駆け出しの冒険者じゃ……?」 戸惑いながらも、幼い声で問い返した。職員はその言葉に一瞬言葉を選ぶような様子を見せるが、すぐに静かに説明を始めた。
「レティアさんは、すでにレベルが36を超えています。それに魔力に耐え切れず鑑定板が砕けるほどです。通常の冒険者条件はもちろんのこと、年齢を除けばすでにすべての基準を満たしていると言えます。」 話を終えると、職員は深く頭を下げた。♢幼き日の思い出・絆を深める時間 森の中、夜が深まり焚き火が柔らかな光を放つ中、三人は静かに座り込んで休んでいた。炎が揺らめき、木々の影が波のように動く。その光景に包まれながら、レティアがふと話し始めた。「ねぇねぇ、子供の頃って、どんなことして遊んでた?」 彼女の無邪気な問いに、ルーシーは少し考え込んだ後、視線を焚き火に向けて口を開いた。「わたしは、父さんが剣士だったから、いつも剣術の練習ばっかりしてたわね。遊ぶなんてあんまりしなかったな。でも、剣を振るのは楽しかったわ。」 その言葉にはどこか懐かしさが込められていて、彼女が当時の思い出を思い返している様子が伺えた。 レティアは目を輝かせながら、ルーシーの話を聞いていた。「剣術の練習かぁ……かっこいい! わたしはね、友達と鬼ごっことかしてたよぅ♪ で、 途中で疲れて草の上に寝っ転がって、お菓子食べたりしてたの。」彼女の無邪気な声に、場の雰囲気が和らぎ、二人は思わず笑顔を浮かべた。 その時、フィオーレが杖を握りしめながら話に加わった。「わたしは魔法を使う家系だったので、小さい頃から母に魔法の基礎を教わっていました。簡単な火球を作れるようになった時は、とても嬉しくて……自分が特別な存在だと思ってたんです。」 彼女の声には少し誇らしさが混じっていて、その頃の思い出が生き生きと語られた。 ルーシーはその話を聞きながら、小さく頷いた。「特別な存在ね……それで頑張ろうと思えるなら、それは素晴らしいわ。」 レティアはその言葉にうんうんと大きく頷き、焚き火の炎をじっと見つめながら微笑んだ。「みんな違うけど、なんだかいいねぇ! ルーシーもフィオも、すっごく素敵な子供時代を過ごしてたんだねぇ♪」 その無邪気な声に、フィオーレは少し恥ずかしそうに頬を赤らめながら、笑顔を浮かべた。そしてルーシーも穏やかな表情で静かに焚き火を見つめる。三人の会話は些細なものだったが、その時間が彼らの絆を少し
♢フィオーレの献身とルーシーの心境の変化 しかし、フィオーレはそんなルーシーの警告を軽々と受け流すかのように、満面の笑みで答えた。「はい! フィオと呼んでくださいねっ♪」 そのニパァとした明るい笑顔に、ルーシーはさらに深くため息をつく。心の中で「面倒な奴ね……」と呟きながらも、どこか憎めないフィオーレの様子に微かに肩の力を抜いた。 森の中で移動が続く中、フィオーレはレティアとルーシーのために尽くし続けていた。彼女の魔術師としての力は生活のあちこちで役立っており、その献身的な姿は二人にとって大きな助けとなっていた。「水が少なくなってきましたね。よし、魔法で汲み上げますね!」 フィオーレはしっかりと杖を握り、近くの湧き水へと魔法をかけて透明な水を汲み上げる。その水がきらきらと輝きながら器に収まる様子に、レティアは目を輝かせながら拍手した。「わぁ、すごーい! フィオ、ありがとう!」「薪も集まりましたね。火をつけるのはお任せください!」 フィオーレは魔法を使い、慎重に集めた薪に小さな炎を宿らせる。その炎が次第に大きくなり、焚き火が暖かい光を放ち始める様子にルーシーは頷いた。「まぁ、ちゃんと役に立ってくれてるわね。」 しかし、フィオーレが料理を試みた際にはどこかぎこちない動きが目立った。フライパンの扱いも不慣れで、なぜか焦げた匂いが漂い始める。「あ、あれ……どうして……?」 フィオーレは困惑した表情で火を弱めようとするが、うまくいかない様子を見たルーシーがため息をつきながら手を伸ばす。「もう、いいわ。料理はわたしがするから。あんたは座って休んでなさい。」 フィオーレは申し訳なさそうに小さく頷きながら、その場を譲った。「ごめんなさい……やっぱり料理は向いていないみたいです。でも、他で頑張ります!」 その言葉通り、フィオーレは魔法を駆使して二人の生活を支える役割を果たしていく。例えば森の中で花を集
♢圧倒的な力、レティアの真の実力 爆発の衝撃で一瞬、空間が歪み、地形は一変した。周囲の大地は黒く焦げ、激しい炎が天を突いた。フィオーレはその光景を目の当たりにし、声も出せぬまま呆然と立ち尽くしていた。圧倒的な力を前に、彼女は初めてレティアの言葉の意味を痛感した――「戦力が必要ない」とは謙遜でも虚勢でもなく、彼女自身がそれほどの力を備えているという、紛れもない現実だったのだ。「「うわっ!? なにっ!?」」 ルーシーとフィオーレは声を揃えて驚きの声を上げ、爆発の衝撃が余韻を残す中でレティアの方を見た。『あ、そう言えば……ルーシーに魔法を見せるのって、これが初めてだったかも? 誰にも見せないようにしてたし……。』 内心でそう思いながら、レティアは少し気まずそうに微笑んだ。「えっと……普通のファイアショット……かなぁ?」 レティアが何気なくそう答えると、ルーシーがすかさず突っ込む。「違うでしょ!?」 その勢いに、レティアは少し目をぱちくりさせたが、フィオーレは冷静に魔法の分析を始めていた。「普通のファイアショットではないですね。火球の色も違いますし、威力が異常すぎます。普通は撃ち抜く感じが強いですが……これは、高出力のファイアショットとファイアボールが合わさったような性質でしょうか。」 フィオーレはまるで独り言のように呟いていたが、その正確な分析には思わずルーシーが感心して彼女を見つめた。 その時、周囲に潜んでいた魔物の群れが爆発に巻き込まれ、散り散りになりながらも新たに詰め寄ってくる様子がはっきりと見えた。 そんな中、フィオーレは意気込むように声を上げた。「うふふ……わたしの出番でしょうか?」 その目は活躍できる期待で輝いていたが、レティアは特に慌てる様子もなく、軽く手を振りながら答えた。「ん……っと…&hellip
♢ルーシーの独占欲とシャドウパピーズへの苛立ち その瞬間、隣で満足そうな表情を浮かべていたルーシーが急に振り向き、寂しそうな顔を見せながらレティアの方をじっと見つめた。 レティアはその視線に気づき、「だけどね、一人じゃつまらないよぅ? やっぱり、ルーシーがいなくちゃね♪」と無邪気な言葉を添えた。その笑顔と言葉はルーシーの胸を暖かく満たし、彼女の心の中のモヤモヤした感情を静かに解きほぐしていった。 ルーシーは小さく息を吐きながら、その言葉にどこか救われた気持ちを抱きつつも、わずかにうつむいて静かに微笑んだ。「毎回思うんだけど……”シャドウパピーズ”って可愛い名前を付けてるけど……正直言って、似合ってないわよ。見た目怖いし、凶暴だし……。”シャドウデーモン”とか”シャドウウルフ”の方がいいんじゃないの?」 ルーシーは腕を組みながら呟いた。その言葉には苛立ちというより、どこか戸惑い混じりの率直さが感じられる。 その瞬間、シャドウパピーズたちが反応し、鋭い唸り声を上げた。「ガルルゥゥ……」その声はまるで、自分たちの名前に対する意見を理解しているかのようで、ルーシーを軽く威圧するように響いた。 ルーシーは身を引きつつ、彼らの視線に肩をすくめながら言葉を続けた。「ほら、威圧的な態度! 名前なんて可愛さに見合ってないじゃない!」 レティアはそんなやり取りをよそにニコニコと楽しそうに笑いながら返した。「そうかなぁ〜可愛いじゃん。『くぅーん』って鳴いて甘えてくるんだよぅ? ノクスに比べたら、ちーさいし♪」 ルーシーは眉をひそめながら反論した。「そりゃあ……ノクスに比べたら小さいけど、十分に巨体だよ。あんたが乗れるくらい大きいじゃないの!」 そのやり取りを聞いていたフィオーレは、言葉を挟む隙も見つからず、昨日とは逆転した立場に立たされたように黙り込んでいた。彼女の目には、レティア
♢ルーシーの感情とレティアの無邪気さ その瞬間、ルーシーの顔に怒りが浮かび、思わず声を荒げた。「わたしは嫌よ。あんた、パーティが気に入ったんじゃなくて、レティーが気に入ったんでしょ? 何かあるとすぐにレティーを見てるし、聞くのもレティーばっかり! それならレティーが決めなさいよ! この子がパーティに入るなら、わたしは抜けるわ!」 ルーシーは自分でも驚くほど強い言葉を口にし、話しているうちにイライラが込み上げてきてしまった。彼女はその言葉が本心ではないと自覚しながらも、つい感情のままに伝えてしまった。 一方、レティアは朝食をモグモグと食べながら、そのやり取りを完全にスルーしているようだった。急に話を振られると、食事を飲み込みながら少し戸惑った表情で答えた。「え? なになに? わたしのパーティは、ルーシーだけだよぅ? フィオは昨日困ってるって言うから泊めただけだしぃ……メンバー募集してないよぅ? リーダーはルーシーだしぃ♪ リーダーがダメって言ってるんだから、ダメじゃない?」 そう言うと、レティアは再び朝食を口に運び、モグモグと楽しそうに食べ始めた。無邪気な態度にルーシーもフィオーレも言葉を失い、それぞれ視線をそらして静かな時間が流れた。♢フィオーレの自負とレティアの認識 フィオーレは驚きと戸惑いの表情を隠せなかった。「え? そんな……どうして? わたし……役に立っていたでしょ? 戦闘だって……そこの子よりも活躍できていましたよ?」 その言葉には、昨夜の戦いで自分が力を尽くしたという自負が込められていた。 しかし、レティアはまるで気に留める様子もなく、無邪気な声で答える。「ん? 戦闘? あぁ〜うん。そうだねー♪ あれ、楽しかったよねー。役に立つって……? 一緒に遊んだだけじゃーん。ルーシーは料理を作ってくれてたしぃ……」 その言葉にルーシーは一瞬固まったが、すぐに顔をほころばせ、ニパ
♢ルーシーの夜明け☆剣士としての過去と現在の葛藤 朝日がまだ森を染め上げる前、薄い光が静かに差し込む中、ルーシーは目を覚ました。隣で寝息を立てるレティアの姿に気づき、思わずその寝顔をじっと見つめる。無邪気で安心しきった表情に、ふと胸が締めつけられるような気持ちが湧き上がる。「はぁ……。ばぁ〜かっ。」 ルーシーは小さく呟くと、そっとレティアの頬をそっと撫でた。その指先に伝わるほんのりとした温かさが、彼女をどこか切なくさせる。『わたしの気も知らないで……まったく、もぉ……』 心の中でそう思いながらも、ルーシーは小さく笑い、少しだけ俯いた。 立ち上がると、焚き火の跡に目をやりながら軽く伸びをする。そして、剣を手に取りながら独り言のように静かに呟いた。「よし……今日は久しぶりに剣術の練習でもしようかな。」 彼女は少し離れた開けた場所へと足を運び、そこに朝日が昇り始めるまでの静かな時間を剣の感触と共に過ごすことにした。切り裂くような空気の音が辺りに響き、ルーシーの動きにはどこか心を落ち着けるような繊細さがあった。 焚き火の前で剣を握りしめながら、ルーシーはふと自分の過去を思い返していた。「弓矢も役立つけれど……威力と射程が問題よね……。魔術師との射程が被ってるし。魔術師と相性がいいのは剣士って聞くし。」 そう呟きながら、彼女は腰に携えた帯剣を見つめた。その剣はまるでお守りのように、彼女の腰に静かに収まっている。 幼い頃、ルーシーは父親から剣術を教わっていた。冒険者として名を馳せた剣士だった父は、彼女に剣の扱い方だけでなく、その戦いの精神をも教えてくれた。幼いルーシーはその教えを喜びながら学び、父と同じような立派な剣士になることを夢見ていた。 冒険者として独り立ちした後、ルーシーはパーティを組めると信じていた。しかし、ムスッとした顔とキツイ口調のため、周囲から誘われることはなく、孤独な日々を過ごすことになった。その間も